自分が触れて人生に影響を受けてきた演劇を少し紹介したいです。
自分はもともと高校までひたすらスポーツをやってきた人間で、一時期プロアスリートになりたい、プロサッカー選手になりたいと考えていましたが、ある時高校の選択科目で演劇を選択し、その授業でままごとの「わが星」という作品を見ました。
ままごととは、今なお日本の小劇場演劇に大きな影響を与える平田オリザさんという演出家が立ち上げた、青年団という劇団から派生した演劇ユニットです。
そのユニットの代表作が「わが星」という作品なのですが、それをDVDで鑑賞した時に大きな衝撃を受けました。
今まで自分が「演劇」と聞くと想像していた小難しい理解し難い高尚な芸術、みたいなイメージからはおよそかけ離れた空間が展開されていて、それを見て演劇ってすごい、やってみたい!と思うようになりました。
ままごとのわが星は、よくある(あった)日本の大家族の一家団欒的な日常を描きながら、同時に宇宙や星の生誕と死を描くという、ミクロかつ壮大な演劇空間が繰り広げられる作品です。
そんな空間を、とてもシンプルな円形の白い舞台の上を、ラップとドラムと身体表現で、ほのぼのする家族の日常を通しながら震えるほど遠くて近い大きな物語を描き出していました。演劇は難しい文学的な表現だけでなく、音楽や身体や踊りや歌の中からも生み出される多種多様な表現ジャンルなんだということを学びました。
自分はアスリートの、自分の身体の可能性を奥深く追求していく姿にとても興味があったので、そういう演劇のフィジカル的な営みや繋がりみたいなものに共感を覚え、強く関心を持ちました。
それからというもの、大学の演劇サークルで活動する傍ら、ひたすら演劇作品や映画、ドラマを片っ端から見漁るようになりました。
特に演劇作品で好きだったものは、蜷川幸雄、野田秀樹、つかこうへいさんたちの作品です。どれもスタイルは違いますが、俳優の身体、フィジカルを通して観客に訴えかける熱量の高い作品を多く作り出してきた人たちです。
蜷川幸雄さんは当時なかなかなかったジャニーズをはじめとするアイドルを積極的に起用し、あえて若い人たちがなかなか知らないような難しい古典作品をたくさん演出してきた方です。
今や大物俳優になっている小栗旬、藤原竜也なども今ほどあまり注目されてない時期から作品の主役に抜擢し、演劇という世界で鍛え上げてきました。
蜷川幸雄さんの演出は、基本大掛かりで意外性のある舞台美術と音楽を使用し、開演開始3分で観客を引き込むと本人がおっしゃっていたほど息を呑むような舞台のオープニングが展開されることが多いです。そこに小手先の技術を捨て去って俳優本人の身体やポテンシャルを高い熱量と共に魅せていくスタイルにとても憧れがありました。
野田秀樹さんは東京大学の夢の遊民社という演劇サークルから出発して、豊富な運動量や日本語でラップのように韻を踏んでいく言葉遊び、そしてなんでもない日本語の言葉をどんどん派生させていって最後にはぞっとするような壮大で宇宙空間が広がるような劇世界に観客を掻っ攫っていくような作品をたくさん作り、演出している方です。
役者としての能力もとても高く、かつては読売巨人軍の春のキャンプメニューを取り寄せ劇団員にやらせていたという噂を聞くほど、鍛え上げたフィジカルで縦横無尽に舞台を駆け回る物凄い俳優でもあります。
つかこうへいさんはまるで機関銃のように俳優に台詞を放たせながら、まるでF1レースを完走するような舞台を作り上げた人で、訓練された俳優が身体を制御できなくなるほど全てを出し切るような佇まいを見て、言葉では言い難いほどの高揚感と余韻を観客に感じさせます。
このような感じで、自分はアスリートの身体や、俳優のフィジカルを通した表現に強く惹かれるようになり、両者に相関関係のようなものがあるとしたら、それを繋げるような研究をしてみたい、と考えるようになっていきました。